憂鬱

ロックバンド、小説、日常などについて、脈絡なく

蚊に刺されました

  オンラインの講義が終わって、今日も今日とて音楽を聴きながらだらだらとしていた。無意識に左腕をかいたが、どうにも痒くてふと見ると、赤いぷっくりがつくられていた。最近あったかくなってきたから、とうとうやつらが動きだしたらしい。もう、蚊の季節である。

 

  蚊に刺されると、いつも考えることがある。最初に蚊をたたきつぶした輩は、ガチの超重罪人であるということだ。知っているだろうか。蚊という生き物は、ぼくたちから血を吸う時にご丁寧に麻酔を注入してくれるということを。その麻酔っていうのは、蚊の唾液の事なんだけど、それによるアレルギー反応でぼくたちは毎夏、毎夏、「かいーかいー」と騒がなければならないのである。話を戻す。最初に蚊をたたきつぶした輩が重罪人であるという話だ。先に言っておくと、この話は「蚊の唾液の麻酔効果は後天的なものである」という前提でする。実際のところは知らん。もしかすると、蚊っていう生き物の唾液は、蚊という生き物がこの世に生まれた時から麻酔だったのかもしらん。それは考えない。だからこれからする話はただのぼくの妄想みたいなもんだ。

 

  蚊が生まれる。卵を産む時がやってきて、彼女は人間の血を必要とした。彼女はこっそり血を吸おうとした。しかし、その時彼女はまだ麻酔効果を持つ唾液を持ち合わせていないため、人間に気付かれてしまった。ここである。ここでこの人間が心の広い、大きな人間ならば問題はないのである。しかし、こいつは器の小さなくずであった。産卵を控えた彼女は無慈悲にもこの人間にたたきつぶされてしまった。これは問題である。生き物は子孫を残すため、生まれてくる。そのためには蚊たちは人間の血を吸わなければならない。そこで彼女たちは進化の末、必然的に麻酔を手に入れるのである。こうなるともう終わり。謎の痒みの原因がこの小さな虫だということを知った人間たちは蚊を躍起になって殺し始める。腕に止まったところを見ようものなら即ばちんである。蚊取り線香なる殺蚊兵器まで生み出される始末である。蚊たちはもういよいよ麻酔を手放せない。殺し合いの螺旋である。否、殺し合いというのは間違いだ。一方的な殺戮と、やむを得ない事情によるところの小さな痒みによる意図しない報復の連鎖である。人間が悪い。蚊が1回に吸っていく血なんぞ、ぼくたちの体を流れるこの血を見れば、本当になんでもない量である。そのなんでもない量の血を彼女たちに恵むことを拒み、たたきつぶした最初の人間は極悪人である。こういうことだ。

 

  ちなみにぼくは、詳細な時期は忘れたけれど中学生の時分に、あんなちっぽけな虫を必死になって殺そうとしている自分を情けなく思ってから、神に誓って一度も蚊を殺していない。これはまじ。「お前がばちんとやっているところを見たぞ」というやつがいるかもしらん。それはただばちんとやりたかっただけ。その言い訳として、「蚊がいたのさ」という最も適したものを使用しているだけである。そういう、いきなりばちんとやったり、些細な嘘をついて喜ぶ人間なのだ。許してくれ。話を戻す。いつまでこの殺戮と、意図しない、やむを得ない報復の連鎖をぼくたち人間と蚊たちは続けなければいけないのか。どこがでどちらかが下りる必要がある。小さな子どもたちは、よく叩きあう。先に叩いた方は、どうしても相手よりも1回多く叩きたくて、叩き返した方は、相手よりも叩く回数が少ないとやばい損をしたような気になる。あれはその子たちの精神年齢が低ければ低いほど長く続く。あれは先にやめた方の勝ちなのだ。負けたような気がするが、絶対的に先にやめた方が大人で、格好がいい。そんな訳でぼくはこの殺戮と報復の螺旋に対するささやかな抵抗として、いつも彼女たちに血を提供している。ぼくの名前であるこの「壮」という字には、両親の、心の広い、大きな、やさしい人間になって欲しいという願いが込められている。それはとても難しいことだと思う。小さなことからやっていく。ぼくは蚊を殺さない。

 

  最後終われなくてなんか無理矢理いい話っぽくしてみた。ここまで読んだ暇人のあなた、ありがとう。